SEKI MAG / カグとケンチクとクラシSEKIKAGU ORDER(セキカグオーダー)の家具やオンラインオーダーサービスについて、建築家・設計者・デザイナーの視点からカグやケンチクやクラシをテーマに、深い視点で考察していくシリーズです。 |
---|
「カグとケンチクとクラシ」の初めての記事は、大分の建築家「伊藤憲吾」氏にお願いしました。どのような視点でお話が展開されるのか楽しみです。
伊藤憲吾/建築家
伊藤憲吾建築設計事務所 代表
はじめまして。大分県で建築設計事務所をしている伊藤憲吾と申します。住宅設計を中心として、様々な建築空間の誕生と建築活動に取り組んでいます。建築は人が造る最大のものです。大きな空間の為に、小さな部分をつくります。建築には技術も知識もそして文化もあり、幅広い思考が必要です。専門業種として仕事に向き合いますが、いつまで経っても「ムズカシイナァ…」と感じています。さてそんな私ですが、この度、セキカグオーダーさんで記事を書かせていただくことになりました。
建築設計という仕事の目線からご紹介をさせて頂きます。どうぞよろしくお願いします。
今回、ご紹介させていただくのはCATARINA(カタリナ)です。
図面に描ける家具
チャーミングな名前のCATARINAはサイズオーダーが可能なテーブルです。ミリ単位でオーダーすることができます。幅はなんと1800mmのビッグサイズまで可能です。サイズオーダーは設計者として嬉しいことです。それは、建築がぞれぞれの敷地に建つ一品生産だからです。
建築の計画は、いつも敷地の場所や形状が違います。四角い敷地もあれば、三角の敷地もあるし、斜面地の敷地もあります。住宅設計においては、家族構成もそれぞれ違います。ゆえに建築はいつも違う形になります。建築はいつだってオーダーメイドの一品生産なのです。同じ形の建築を大量生産することで効率性(早く建つ)はあがるのですが、同じ形の建築に、多様な家族構成の皆さんが生活することは、どこかで無理が生じます。
例えば、設計をするときに住む人の職業が違えば部屋の間取りは変わります。魚市場で働くお父さんは朝が早いので、家族のだれよりも早く寝ます。そんな時は寝室とリビングは離して配置します。リビングの音でお父さんを起こしたくないですよね。建築はそれぞれの理由で生まれます。
私達、建築の設計者は同じ図面を描く事がありません。部屋のサイズもそれぞれです。家具のサイズは同じでいいのでしょうか?家具も家族に合わせた形であってほしいと思います。大家族もいれば、一人暮らしもあります。背の高い人もいれば、背の低い人もいます。
目の前の家族の為の建築のサイズを、私たちは図面に描いています。CATARINAはオーダーができるので、図面に描くことができます。空間の違い、家族の違いに応えてくれます。それは設計者として、とても嬉しい家具なのです。
背景となる家具
天板の仕様は厳選されたラインナップになっています。デザインもシンプルです。ともすれば、家具屋さんに並ぶとシンプル過ぎて、隣に並ぶ他の家具の方が目立っちゃうこともあるかもしれません。それぐらい控えめでシンプルなデザインです。
私は家具を目立つデザインを選ぶべきとは思いません。それは建築空間も同じだからです。強い個性を持つ空間は、家具を選びにくいことがあります。建築空間は背景となるべきだと私は思っています。生活の主役は人の暮らしです。暮らしを支えるために建築空間はあります。空間に合わせて暮らすよりも、暮らしに合わせた背景のような空間で在りたいと思います。
サイズオーダーのできる家具は建築に近い存在だと思います。いうなれば建築化する家具がCATARINAです。この家具は同じ目的にむかってくれます。例えば食事をするダイニングテーブルなら主役は料理です。料理のデザインを邪魔しない背景となるテーブルです。例えばオフィスのデスクなら、書類やPCが主役です。その人の仕事にとって使いやすいサイズにすることで適切に仕事を支えてくれます。
居心地のいい場所には、それを支える背景があります。この家具は暮らしの背景となる家具です。よっ!名脇役!と声をかけたくなりますね。
自分だけの家具は、未来に繋がるかもしれない
人と同じものをもつことの安心感があります。でも自分だけのものを持つことの特別感もあります。サイズオーダーをするだけでも自分だけのものになります。家具に自分を合わせるのではなく、家具が自分に合わせてくれます。それって嬉しいですね。
すこし固い話に反れますが、日本の人口は2008年より減少を始めました。これは、はるか昔の鎌倉時代から考えても日本の歴史上初めてのことになります。人口は増え続ける、それが常識としていままでの社会は成長してきました。大量生産・大量消費のビジネスは、人口が増え続けることで成立していました。大量に物をつくって、それが大量に売れたのは人口が増えていたからです。人口減少時代に突入し、これまでの常識が通用しない状況に今後ますます向かいます。大量に物を作ってコストを抑えても、大量に買ってもらえる状況ではなくなりました。同じ家具を大量につくることから脱却しなければいけません。大量に作っても在庫の管理コストがかかるばかりで、目的だった安くするためのスケールメリットにもつながりません。
好きなサイズをオーダーする仕組みには、オーダーを受けてから製作する受注体制の変化でもあります。これは廃棄される資材を生まない仕組みでもあります。これからの地球環境負荷の軽減を目的とした時代に必要なのは、生産エネルギーをなるべくかけないために、その地域の資源でつくること、そして必要以上につくらないことが大切です。消費者も必要以上に持たないことと求めないことが大切です。そして長く使い続けることです。
お気に入りの自分だけの家具は、長く使える物になります。メンテナンスも大切にするセキカグオーダーに、私は次の時代の未来を感じています。もしかすると、オーダーゆえにリサイクルやアップサイクルも今後可能になるかもしれません。自分だけの家具を持つことは、これからの時代の要請かもしれませんね。
時代と共に建築も家具も変わります。人も変わらないといけませんね。最後までお読みいただき、ありがとうございました!
伊藤憲吾 ItoKENGO1976年 大分県大分市生まれ |