SEKI MAG / カグとケンチクとクラシSEKIKAGU ORDER(セキカグオーダー)の家具やオンラインオーダーサービスについて、建築家・設計者・デザイナーの視点からカグやケンチクやクラシをテーマに、深い視点で考察していくシリーズです。 |
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FACTORIAL製作秘話
今回は「FACTORIAL」のお話を聞きました。その名前は翻訳すると「階乗」という数学の用語のようですが、ラテン語の「作り出すもの」に由来しています。
この商品は関家具さんと乗富鉄工所さんのコラボレーションで生まれています。どのような経緯で作り出されたのか?その製作秘話を聞きました。
木工と鉄工所のコラボレーション
関家具さんといえば木工です。
なぜ鉄工所さんと共同開発するに至ったのか?その理由を聞いてみました。
出会いは日本最大級のパーソナルギフトと生活雑貨の国際見本市『東京インターナショナル・ギフト・ショー』だったそうです。
そこに乗富鉄工所さんが出展されていました。鉄工所さんがギフトショーに?乗富鉄工所さんは水門メーカーです。
水門には高度な精度が求められ、1948年の創業より技術を研鑽されていました。
技術が進むほどに水門は優れたものになり、修理も少なくなっていきます。皮肉なことに良いものを作るほどに仕事としては減っていきます。
社会が成熟してきた証拠ですが、未来の可能性を広げるために乗富鉄工所さんはこれまで培ってきた技術を活かし、キャンプ用品の開発に取り組まれグッドデザイン賞を頂くまでの商品を開発します。その商品をギフトショーで見つけた関家具の担当者さんがシンパシーを感じ、ワクワクした気持ちで連絡を取ったそうです。
なんと同じ福岡の企業だという事もわかり意気投合!そこから一気に商品開発へと進みます。お話を聞きながら「なんだかノリの良い話だなぁ」と思っていたら、乗富鉄工所さんのプロダクトはNORINORI PROJECT(ノリノリプロジェクト)という名称でした。なるほどです、してやられました。ちょっと悔しい。

高い技術によるディテール
家具と鉄工所のコラボレーションには困難があったのでは?そう思い、製作にかかわった鉄工所の職人さんに聞きました。すると「難しくはない」と即答されました。理由は普段の水門の業務の難しさに比べると大したことではない、という意味でした。高い職人の意識による言葉です。とはいえ、誰にでもできる形状ではないようです。水道配管はねじ込み式と呼ばれる形状で出来ています。配管パイプとそれを繋ぐジョイント部分はネジ式となっており、順番にねじ込んでいきます。この家具のようにロの字型の形状になると最後に回転が逆になり繋げなくなる。さらに丸い配管にアジャスターとなる脚部が取りついています。水平に取り付けるためには配管の回転を考慮しなければいけません。文章で書くとわかりにくいのですが、水道配管を家具に使うことは簡単ではないことが分かりました。職人さんってスゲーな、、、と心の声が漏れました。

リノベーション空間には本質的なインダストリアルを
この家具を使うシーンを想像すると、インダストリアルなリノベーション空間が思い浮かびます。ヨーロッパなどの海外の空間は古い建物を利用したものが多いのですが、日本においてもリノベーションによる空間が増えてきました。これは人口減少などにより新築産業からストック産業になってきたことが理由の一つです。リノベーションは既存の空間を活かすことが大切となります。その為、、、か、どうかはわかりませんがインダストリアルという言葉を一般の方から多く聞くようになった気がします。インダストリアルなデザインのカッコよさを求める人が増えました。そういう商品も多く見るようになりましたが、このFACTORIALはその中でも本質的に優れているように思います。本物の工場の質感を持っています。リノベーションの空間は、時間が蓄積された元々の空間の質があり、それに合わせて家具を選ばなければいけません。空間に負けない強度、生活に馴染む繊細さも持ち合わせるFACTORIAL
は、リノベーションされた空間に上質さを与えてくれるように思います。これはこれからの時代に向けた一つの応えかもしれません。

ワクワクとノリノリ
実際にも重さがあるこの商品は、それだけでも他にはない質の高さを感じさせてくれます。軽量化された商品も技術の発展により生まれたものですが、プラスチック的な軽さは時に物の質を軽く見せる事もあります。石でつくられたテーブルに近い高級感もありそうです。商品のラインナップにはタイヤの付いたものもあります。関家具さんによると、これにより女性でも移動が行いやすくしているそうです。テーブルにタイヤをつけるってありそうでないアイデアです。商品企画の際のワクワクした感じが見えてきます。ワクワクの関家具さんと、ノリノリの乗富鉄工所さんが掛け合わせて生まれたことが伝わりました。このワクワクとノリノリは購入する方にも伝播しそうです。あんなことできるかな?こんなこともできるかな?とクリエイティブな気持ちを刺激してくれます。生活空間の中にそんな家具があるって素敵です。

見に行きたい家具
この家具は、実際に見に行きたくなります。配管の質感、職人の技術、木材と鉄の組み合わせ、重さなどなど、知れば知るほど実物が見てみたいと思います。実はこのお話はオンラインですることになり、私自身がいまだ実物を見ていないのです。。。工場に行き製作も見たい、実物も見たい、作っている職人さんに会いたい、そういったストーリー性を知りたくなります。そんな商品に出会えることは多くありません。これはもう見に行かねば!です。FACTORIALは関家具のショールーム(福岡県大川市)に実物が展示されているそうです。興味のある方は是非見に行ってください!
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伊藤憲吾 ItoKENGO1976年 大分県大分市生まれ |